紫陽花…三好達治

おりおり

アジサイの季節です。新緑の大きな葉と淡い色の花々は、6月という月にピッタリの花だと思います。

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誰にも、心像風景というものがあると思いますが、アジサイと聞くと何時も現れるのが紫陽花と言う言葉と次の詩(うた)です。

母よ--
淡くかなしきもののふるなり
紫陽花いろのもののふるなり
はてしなき並木のかげを
そうそうと風のふくなり

時はたそがれ
母よ 私の乳母車を押せ
泣きぬれる夕日にむかって
轔々と私の乳母車を押せ

赤い総ある天鵞絨の帽子を
つめたき額にかむらせよ
旅いそぐ鳥の列にも
季節は空を渡るなり

淡くかなしきもののふるなり
紫陽花いろのもののふる道
母よ 私はしってゐる
この道は遠く遠くはてしない道

三好達治  「乳母車」 『測量船』

 
この詩(うた)を口ずさむと、いつもある情景が目の前に広がります。
遠い山の稜線がくっきり見えています。沈みゆく日は、すべてを赤みを帯びた黄金色に包み込みます。一つの道が陽の沈む方向にまっすぐに続いています。何も遮るもののない静かな夕暮れです。そこを何処までも歩く自分がいます。同時に、その歩く自分を見つめる自分もまたそこにいます。

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遙か昔、高校の教科書で学んだ詩です。一つ一つの言葉とそれらが織りなすリズムとそれらが総体として醸し出す世界とが忘れられない記憶となったようです。
もちろんここで見えているシーンは、自分の別の原体験を重ねたものなので、この詩を解釈したものではありません。昔から大きく澄みわたる青い空や赤くまたは黄金色に染め上げる夕日とに特別な感情を抱く自分でした。

やはり、あじさいやアジサイではなく「紫陽花」で有りたいと思います。 ところで、上記「乳母車」の紫陽花は何色が似合うと思いますか? 自分は、赤みを帯びた青色と思っています。

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