ため息

きままな読書

沈みゆく大国 アメリカ

アメリカもここまで来たのかと、思わずつぶやいてしまいました。堤さんの著書は、以前にもここで紹介したことがあります。「(株)貧困大国アメリカ」では、株式会社に売り渡した食と農業と教育とが、いかなる荒廃をもたらしているかを豊富な資料とともに示していました。
今回の「沈みゆく大国 アメリカ」では、ついに命までも商品にしてしまう「不思議な国 アメリカ」が描かれています。
アメリカは、本当に不思議な国と思います。民主主義のリーダと自他共に認めている(と思っている)国で、なぜこんな理不尽なことができるのでしょう。なぜ人々は、こんな不安定な社会を許しているのでしょう。

詳細は、本書を読んでもらうとして、以下は、本書を含むいろいろな情報から読み取り描いた恐ろしいまでの姿です。

沈みゆく大国 アメリカ これまで、オバマケアに対する理解は、次のようなものでした。低所得者・無保険加入者を救う皆健康保険であり、リベラルな民主党だからできる施策である。これに対し、自己責任論を展開して負担増を嫌う白人保守派の共和党が導入反対を主張して抵抗している。
現実は、もっと複雑で危険な要素が満載のようです。この政策の恩恵を受けるのは誰なのか? TBTF(Too Big To Fail=大きすぎてつぶせない)とは何なのか?

信じがたいことですが、アメリカでは薬価決定に政府が介入できないらしい。その結果、薬価は青天井で、1錠$1,000(約10万円)12週で$84,000(約840万円)もの薬が保険適用薬として登録されてることもあるようです。これは、患者のみならず政府の負担も膨大になることを示しています。政府の負担は、国民の負担であることに注意が必要です。寡占化した製薬会社は、何の心配も無く価格を決められるし、保険会社は、より多くこの薬を使い政府から金を引き出そうとします。

どこかの国でもよく言われる、「規制緩和、競争強化そしてコストカット」この結果が、ここにあります。農業をつぶし、食をうばい、教育を破壊しそしてついに医療をつぶそうとしている、これを政府が後押ししているように見える国、アメリカとは本当に不思議な国です。
政府の施策を企業出身者が作り、それを手土産にまた企業に戻ることが普通に行われている国で、国民に対する施策が生まれてくるとは思えません。出てくるのは、消費者に対する施策です。国民を消費者とみる国は恐ろしい国です。ここに民主主義はあるのでしょうか。

民主主義は、資本主義に屈したのでしょうか? 資本とは何でしょうか? どうしてここまで強欲なのでしょうか?
素人として思うに株式会社がもつ宿命と思います。株主は、常により多くのリターンを要求する。つまり、株式会社は、常に成長しなければならない宿命を持つ、成長するためには市場がいる。市場が無ければ作り出そうとする。国内では、あの手この手で99%の国民から利益を吸い上げようとする。国内市場が枯渇すると、海外に出る。TPPがそのための道具であることは、よく知られています。

日本の国民皆保険制度は、効率的でしかも有意な効果を出していると世界から賞賛されるシステムといわれています。世界最高水準の長寿国であることがその有効性を証明しています。「個人破産の半数以上が医療破産」、「がん治療薬は自己負担、安楽死薬なら保険適用」の国と比べるまでもありません。この日本国民の財産を、アメリカの「グローバル企業」に差し出してはならないと強く思います。

悪い夢であって欲しいですね。とにかく、立ち読みでも良いので一度手に取ることをおすすめします。

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