きままな読書

定常経済

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「定常経済」と言う言葉を目にする機会が多くなりました。現在、「経済成長」のみが、現在あるいは将来においる諸問題を解決すると声高に叫ばれています。本当にそうか? ここで上げた3冊は、いずれも「経済成長」には、さよならをしましょう。そして、新たな立脚点から社会を構築していきましょうといったものです。

これからの社会は、地球規模での「環境」の制約により「成長」が制約されると同時に、特に先進国では、人口減少と人口構成の変化の影響も受ける。(ここでの「環境」は、資源とその排出物を含む概念で「自然的制約」に近い。)このような環境下での「経済成長には代償が伴う」という認識が受け入れられる状況になってきているとしています。また、来たるべき将来の、持続可能な福祉国家・福祉社会は「経済成長至上主義から脱却して初めて実現できると説いています。自分あるいは、その子・孫たちの将来が気になる方には、特におすすめです。

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『定常型社会』は、なかなか難解な内容ですが、歴史的経緯から「環境・福祉・経済」を解きほぐしてあるので現在の立ち位置がよく判ると共に将来に持続することの難しさもよく判ります。
2001年発行の本ですが、それから15年近く経ち、指摘している内容は、ますますその確かさを増していると受け取りました。全体的に難解ではありますが、2章と4章は比較的分かり易くおすすめです。

 

 

 

 

 

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『「定常経済」は可能だ!』元世界銀行チーフエコノミストのハーマン・デイリーです。物質とエネルギーのスループットを再生可能な範囲内に落とすことで持続可能な経済が実現できると言っていると思います。定常経済とはどのようなものか?に対する回答が対談形式で書かれているので読み易いと思います。

 

 

 

 

IMG_0003-1_01『しんがりの思想』は、元阪大総長の鷲田先生の書です。哲学者らしくいろいろ示唆に富んだ内容があります。とっても平易に書かれているので空き時間等の読書にもおすすめです。

冒頭に、今の30年代後半以降の年代の人たちは、(経済の)「右肩上がり」を経験していない世代であるとあります。なるほどと思いました。現在の日本を動かしている世代は、「ゼロ成長など考えられない」人々であるから、現在及び将来の課題への施策が何かズレていると思われるのも当然と納得しました。
これから20年もすれば社会の中枢は、「右肩上がり」を経験していない世代となるので、打ち出される施策も大きく変わってくるでしょう。そこでの社会は、経済成長至上主義と決別した社会のはずです。

この書では、これまでは強いリーダシップを求め、市民は、そのリーダシップにお任せしていた。その結果、市民は行政におねだり、お願いするだけで、市民性(=地域社会の中で、自分たちに関わる公共的なことがらを共に考える)を失い、周囲とのコミュニティを遮断された個人になってしまった(=市民の無力化)。成長を目的としている間は、それも意味あり有益であったが、成長を失った社会では、上手く機能しない。
これからの社会は、お任せから脱却し(=脱リーダシップ)して市民性を奪還するフォロワーシップ(=しんがり)をしっかり努める人々が求められるようになるとしている。

成長神話の信奉者は、次の世代が経済を回すための需要を「経済成長」の名のもとで先取りしてしまい、あまつさえ法外な債務を未来社会に付け回ししようとしている。成長すれば何とかなるとの考えが根底に有るからと思う。資源の奪い合いを永遠に続けるつもりなのだろうか。変わらねば、と強く思う。

地方を考える ・・・地方の消滅?

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『地方消滅』 この語を、昨年からいろいろな場面で聞くようになりました。2015年の新書大賞にもなったので書店で見かけた方も多いと思います。

とても深い内容となっています。また、遠い先のことではなくて自身の、あるいは子、孫に直接関わる問題です。ぜひ、序論と第一章だけでも読んで見ることをおすすめします。第一章までなら35ページです。

201505-12008年以降、日本の人口は減少に転じ、年を経るにしたがって急激な減少カーブとなる。2010年の人口約1億2千8百万人は、2050年には約9千7百万人になる。その後も減少は止まらず今世紀末には5千万人を割り込む。

加えて、その人口構成もいびつなものとなっている。まず、団塊の世代が65歳を超えて労働力から外れる、かつ高齢者人口を押し上げる。さらに、いわゆる「少子化」とも相まって働き手はどんどん減少する。加えて、若者の都市部への流出が止まらず地方地域の高齢化率は、加速させられる。

いうまでもなく、産業政策、雇用政策、社会保障政策を行うには、ある程度の住民の数とバランスの取れた年齢構成が必要です。地方においては、この前提が崩れるので自治体の基本をなす集落が消える。やがて、自治体そのものが維持できなくなる。2040年には、自治体の約半数896市町村が消滅する可能性が高いと指摘している。

若年女性(20歳~39歳)の動態に注目した分析は(いろいろ云う人もいるが)説得力があると思います。

処方箋として、東京一極集中に歯止め、地方中核都市役割見直し、コンパクトシティ、地域経済の基盤作りなど、また、子育て支援、働き方の改革、女性登用など盛りだくさんの項目が取り上げられている。狙いは、出生率の回復(当面1.8、最終的には2.1)にある。

でも、チョット待てよと言いたい。人口減少、危機的出生率などは人口ピラミッド図を見れば誰だってわかるし、ず~と前から判っていたことではないか。施策もこれまで声高に云われ続けてきたことばかり。なのに、成果があったとも思われない。悲しいことに『地方創世』も中身を見ると新鮮味に欠ける。だって、その内容は、この本と同じなのでつまらない陳腐だ。

高速道路、新幹線など、どれも東京にとって必要なものばかり、子育て支援と云いながら規制改革だとして非正規労働を拡大してきたのは誰だと云いたい。選挙が終われば『地方創世』など全く聞こえてこない。足下が危ういのに、この静かさは不思議です。

201505-2『農山村は消滅しない』では、地方消滅に対して「どっこい、しぶといですよ。」といった感じの内容ととらえました。注目すべきは、ここに中央の資本(=民間資本)がひとつも出てこないことです。これらの資本は、利益に貢献しないとなればさっさと撤退するので当然相手にすべきではないですね。ましてや、民間会社の農業法人など決して許してはならないと思います。自分たちで法人を立ち上げるのが正解であると思います。しぶとさの源泉は、生産現場があること、設備を所有していることと思います。地域を救うヒントが多くあると読めました。

約1年前にここで紹介した『里山資本主義』『実践!田舎力』に通じるものがあるとも感じました。

 

日本をどのような国にしたいのかは、その人口を抜きにして語れません。『地方消滅』前半で示されているように、もはや1億人を維持するのはほぼ不可能であるとの事実を受け入れれば、強国よりも尊敬される国へと選択するのが必然と思いました。この点を共有して、これまでの流れを大胆に変えていく施策が必要なのでは無いでしょうか。

選択さえ誤らなければ、人口減は悪いことではなく、現状多くの行き過ぎを正し心身共に豊かな社会とすることも可能と思います。

遙か天を仰ぐ

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キーンと冷気が張り詰めた深夜、遅い帰りに見上げた星の光が懐かしい。冬の澄み切った空には、明るい星が多く見応えがあります。ひときわ明るく輝くおおいぬ座のシリウス、誰でも知っているオリオン座の三つ星とその下に広がるオリオン大星雲、青白い星がかたまって見えるおうし座のプレアデス星団(「すばる」)などなどキラキラ輝く星々は、いつまで経っても見飽きることはありません。

久しぶりに宇宙ものです。『宇宙の謎』は、宇宙科学の現時点での到達点が分かり易くまとめてあります。本書を読むと、日常の細かなゴタゴタに煩わされるのが馬鹿馬鹿しくなり、すっ~と心が軽くなります。
Uni01_01曰く、この銀河には1000億個の恒星が含まれ、宇宙には1000億個の銀河がある。
太陽の数十倍の星は、核反応が尽きると一瞬(数万分の1秒らしい)にして重力崩壊を起こし外側を吹き飛ばす。これを超新星爆発と言い、その際の光は銀河全体の星を合わせたものより明るい。
天の川銀河の中心には、太陽の370万倍の質量を持つブラックホールがある。お隣のアンドロメダ銀河のブラックホールは、1億倍の質量を持つ。やがて宇宙の星々は、ブラックホールに飲み込まれ何も無くなる。そして、10の100乗年後には、ブラックホールも消える。
その後どうなる? 分かっていません。
などなど、スケールが違うなどといったことばでは全く足りない世界がある。
各項目5~6ページでまとめてあり、分かり易く書かれているので気楽に読めますが内容は濃いと思いました。

『宇宙は本当にひとつなのか』は、最新宇宙論の入門書として難しいことをやさしく説明してくれています。
Uni02_012003年を境に宇宙論がひっくり返ってしまったと「はじめに」に書かれています。その理由は、次の二つのようです。
太陽系は、太陽を中心として惑星が周回しています。その惑星の速度は、太陽から遠いほどゆっくりになります。言い換えれば、強い重力に引っ張られていると速い速度で動くことになります。銀河もその中央のブラックホールを中心として恒星群が回転しています。ところがこの場合、中心から離れていても速度が遅くなることが無く、外側の方が反って早い速度であることが分かってきました。これは、とても変てこりんなことで、銀河の中心部以外にも大量の物質が有り重力を及ぼしていなければ説明できないのでこの”大量の物質”を「ダーク・マター」と名付けています。意味は、”何か訳の分からん物質のようなもの”と言ったところでしょうか。

もう一つ、宇宙が膨張しているのはよく知られていますが、その膨張速度が、なんと、加速していることが最近分かってきました。宇宙が拡大すれば、体積が増える分エネルギー密度が減るので膨張速度が落ちるのが常識的に納得するところです。加速するには、加速のためのエネルギーが必要です。加速膨張するには、止めども無くどこかからかエネルギーが供給されなければなりません。  何処から?どうやって? これもよく分からないので「ダーク・エネルギー」と名付けられています。

これまで、宇宙は原子(≒物質)で出来ていると思われてきましたが、宇宙全体のエネルギー分布は、原子(元素)の持つエネルギー=4.4%、「ダーク・マター」=23%、残りは「ダーク・エネルギー」=73%となるらしい。つまり、96%はよく分からなく正体不明であることが最近分かってしまったことです。
この本では、重力波からニュートリノのような訳の分からん未知の素粒子まで、さらに多次元宇宙、多元宇宙などの宇宙像(=題名の「宇宙は本当にひとつなのか」)まで、知的好奇心を思い切り満たしてくれます。

薄明るい東京の空でも、少年の頃の記憶が補ってくれるので、十分に夜空を楽しめます。俗世間からしばし離れ、自由な世界で自分を解放してみませんか。

[ここの内容について。数値には、出所により違いがあります。また、記述には自分が誤解しているところもあると思います。]

ため息

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沈みゆく大国 アメリカ

アメリカもここまで来たのかと、思わずつぶやいてしまいました。堤さんの著書は、以前にもここで紹介したことがあります。「(株)貧困大国アメリカ」では、株式会社に売り渡した食と農業と教育とが、いかなる荒廃をもたらしているかを豊富な資料とともに示していました。
今回の「沈みゆく大国 アメリカ」では、ついに命までも商品にしてしまう「不思議な国 アメリカ」が描かれています。
アメリカは、本当に不思議な国と思います。民主主義のリーダと自他共に認めている(と思っている)国で、なぜこんな理不尽なことができるのでしょう。なぜ人々は、こんな不安定な社会を許しているのでしょう。

詳細は、本書を読んでもらうとして、以下は、本書を含むいろいろな情報から読み取り描いた恐ろしいまでの姿です。

沈みゆく大国 アメリカ これまで、オバマケアに対する理解は、次のようなものでした。低所得者・無保険加入者を救う皆健康保険であり、リベラルな民主党だからできる施策である。これに対し、自己責任論を展開して負担増を嫌う白人保守派の共和党が導入反対を主張して抵抗している。
現実は、もっと複雑で危険な要素が満載のようです。この政策の恩恵を受けるのは誰なのか? TBTF(Too Big To Fail=大きすぎてつぶせない)とは何なのか?

信じがたいことですが、アメリカでは薬価決定に政府が介入できないらしい。その結果、薬価は青天井で、1錠$1,000(約10万円)12週で$84,000(約840万円)もの薬が保険適用薬として登録されてることもあるようです。これは、患者のみならず政府の負担も膨大になることを示しています。政府の負担は、国民の負担であることに注意が必要です。寡占化した製薬会社は、何の心配も無く価格を決められるし、保険会社は、より多くこの薬を使い政府から金を引き出そうとします。

どこかの国でもよく言われる、「規制緩和、競争強化そしてコストカット」この結果が、ここにあります。農業をつぶし、食をうばい、教育を破壊しそしてついに医療をつぶそうとしている、これを政府が後押ししているように見える国、アメリカとは本当に不思議な国です。
政府の施策を企業出身者が作り、それを手土産にまた企業に戻ることが普通に行われている国で、国民に対する施策が生まれてくるとは思えません。出てくるのは、消費者に対する施策です。国民を消費者とみる国は恐ろしい国です。ここに民主主義はあるのでしょうか。

民主主義は、資本主義に屈したのでしょうか? 資本とは何でしょうか? どうしてここまで強欲なのでしょうか?
素人として思うに株式会社がもつ宿命と思います。株主は、常により多くのリターンを要求する。つまり、株式会社は、常に成長しなければならない宿命を持つ、成長するためには市場がいる。市場が無ければ作り出そうとする。国内では、あの手この手で99%の国民から利益を吸い上げようとする。国内市場が枯渇すると、海外に出る。TPPがそのための道具であることは、よく知られています。

日本の国民皆保険制度は、効率的でしかも有意な効果を出していると世界から賞賛されるシステムといわれています。世界最高水準の長寿国であることがその有効性を証明しています。「個人破産の半数以上が医療破産」、「がん治療薬は自己負担、安楽死薬なら保険適用」の国と比べるまでもありません。この日本国民の財産を、アメリカの「グローバル企業」に差し出してはならないと強く思います。

悪い夢であって欲しいですね。とにかく、立ち読みでも良いので一度手に取ることをおすすめします。

里山

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このところ、「田舎」を考えています。ここに挙げた本なども一つのきっかけです。どちらかというと現代社会のアンチテーゼとしての側面の強い内容で有ると思っています。どの本にも、この閉塞感ある日本社会を再生するヒントが詰まっていると強く印象づけられました。お薦めの書籍です。

最近、気になる数値に出会いました。どれも新聞の短い記事だったのですが情報元を見ると、その内容は濃いものでした。
ひとつは、今年の3月国土交通省でまとめた~新たな「国土のグランドデザイン」骨子~です。
ここで、全国を《1k㎡メッシュ区分けした地点》で分析して、2050年に人口が現在(2010年の)半分以下になる地点が現在の居住地域の6割以上となり、その内の2割が無居住化するとなっています。今でも居住地点は国土の5割しかないのに、残った部分でもその6割は急激な人口減となるといっています
http://www.mlit.go.jp/report/press/kokudoseisaku03_hh_000067.html

もう一つは、6月の内閣府調査~2014年版「子ども・若者白書」~です。
ここの特集で、今を生きる若者の意識~国際比較からみえてくるものというのがあります。7カ国での意識調査ですが、「自分の将来に明るい希望を持っているか」・・・ダントツの最下位、「40歳になったときに幸せになっている」・・・これもダントツの最下位、「自分自身に満足している」「自分には長所がある」・・・これも最下位。
未来に希望を持てず、自分に自信が持てない日本の若者像がうかびあがります。
http://www8.cao.go.jp/youth/suisin/hakusho.html

 

里山_1『里山資本主義』は、2014年の「新書大賞」なので書店でも見つけやすいと思います。
日本は資源の無い国と教えられてきました。そのため、輸入した原材料(資源)に付加価値をつけて世界に売る。これしか生きる道はないと一生懸命努力してきました。そして気がつけば、食料受給率は39%(カロリーベース)、68%(生産額ベース)[いづれもh24年度]となっています。
実体は、もっと悲惨な状態にあるのをご存じでしょうか。家畜の餌は、100%輸入だし肥料も原材料のほとんどが輸入、さらに農機具、漁船の燃料もほぼ100%輸入にたよっている現実、トータルの受給率は推して知るべしです。

温暖で豊富な水と肥沃な大地を持つ日本である筈なのに、これはなんとしたことでしょう。
里山は、持続可能な資源として水と食料とエネルギーを生み出すことができるとあります。激しく合点します。国外の政情・政策に左右される不安定さからできるだけ遠くに置く政治こそが国を守る基本と考えます。

(さらに…)

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