きままな読書

近現代の日本

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このごろは、明治以降の歴史、社会学の本をまとめて読んでいます。その中からいくつか。

それでもIMG_220 最初は、『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』です。この本は、東大の加藤陽子先生が歴史好きの中高校生に対しておこなった集中講義の内容をまとめられた本とのことです。日清戦争から太平洋戦争まで、いわゆる近現代における「日本人の選択」がテーマです。選択肢は複数在る中で”それを”選択した背景、出来事そして考え方が語られています。

 登場人物の大半は、これまで歴史の中で繰り返し語られて来た人達ですが意外な面も見えて認識を新たにすることがいくつもありました。それぞれの時点で、その「選択」を決定しあるいは中心となって推し進めた人たちですが、当然のことながら大きな流れの中での「選択」なわけです。ややもすると当時の置かれていた流れを見落として、その一場面を切り取って評価してしまいがちです。正しく歴史を解釈し将来における「歴史の誤用」を避けねばなりません。

 当然ですが、現在は、その時々の選択の集大成として在るわけですから、「何故、あの時」「どうしてこんなことを」と言いたくもなります。この本は、その疑問にも平易な言葉で分かり易く記載されています。おすすめの1冊です。

正体IMG_221 次に外交官であった孫崎享さんの『戦後史の正体』です。戦後70年を「米国からの圧力」という視点から読み解いています。これは、別の意味で大変考えさせられる内容を含んでいます。歴代政権が米国とどのように付き合おうとしたのか、その結果何が起き、今に至るまでどのような影響を与えているのかが概観できます。ここにも、意外な側面がたくさん出てきます。

終戦直後はいざ知らず、どの国でも外交は国の利益を基本としていることに改めて気づかさせてくれます。国の利益に直結しなければ簡単に「手のひらを返す」のが当たり前なことに心しておくべきでしょう。TPPに見られるような押しつけは、今に始まったのでないことが分かるし、受け入れ後も透けて見えてしまいます。心してより良い判断をしたいものです。

誰もIMG_222 最後は、売り出し中の若手社会学者、古市憲壽さんの『誰も戦争を教えてくれなかった』です。この本を書いたのは28歳です。若手知性が近現代、とりわけ戦後を如何にとらえているのかは大変興味を持つところです。この本で筆者は、パールハーバー、アウシュヴィッツ、中国、韓国そして沖縄へ「戦争」をどのように「記憶」しているか知るために訪ねています。
戦争の余韻もない中で育ってきた若者に「戦争」という「大きな記憶」を共有させようとしても無理がある。では、いかなる処方箋があるか? こちらも、大変興味あるテーマです。ご一読をお薦めします。

 10年ごとに戦争を繰り返してきた明治中期から昭和初期までと70年間戦争のない戦後。現在まで多くの出来事が歴史として語られています。しかしながら、歴史は時間とともに風化するのはやむを得ないでしょう。でも、せめて中途半端な歴史認識で過去を語るのは止めようと思う。

ひかりかがやく未来を

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(株)貧困大国アメリカ 堤 未果

いつもながら、緻密な取材と膨大な資料に裏打ちされていて説得力ある仕上がりになっています。ここでは、内容について触れるつもりはありません。是非とも実際に購入して読んでほしいとおもいます。
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アメリカが変な国だと思ったのは、著作権の延長問題からでした。知財権に関わっていたころに「ミッキーマウス保護法(*)」と揶揄される法律を成立させて、それを他国にゴリ押しするアメリカを知ったときでした。ディズニーのために国の法律を変えるって何なの?という疑問がありました。

ここに書かれていることがアメリカ国内にとどまっていれば問題は小さいのですが、そうはいかずにグローバル・スタンダードの名の元に全世界を巻き込もうとしていることに危惧の念を抱きます。
この本の中では、ほとんど触れられていませんが金融はアメリカが最も得意とするところです。巷でよく言われる「日本人が営々として築いてきた1000兆円を超える個人資産(郵貯・簡保、健保、年金その他の個人資産)が最終ターゲットである」との議論がにわかに現実のものと思われてきます。TPPは農業問題ではないのです。

1%vs99%が出てきます。これは「99%に属する方は、いつ最底辺に落ち込んでもおかしくない不安定な社会」のことを言っていると解釈しました。自分は大丈夫だと思っている貴方、本当なのでしょうか? あなたの子供に明るい未来を残せるのでしょうか? 今、よく考えた方が良いと思います。分厚く安定した中間層が支えた、偉大で寛大な理想郷アメリカは最早過去にしか存在しないようです。

解決法は、簡単で「工場生産の鶏肉、豚肉」「GM食物」「・・・」にノーと一人一人が行動するだけで済むと思います。なぜなら企業なので売れない(=もうけにならない)と知れば絶対に変わります。でも連帯してノーは、難しいのでしょうね。「合法的に」分断を仕掛けてくるので・・。でも、あきらめるわけにいきません。

(*)ネットで検索すれば多数にヒットします。適当に取捨選択してください。

ビジネス書

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本屋が好きで空き時間があれば本屋に行きます。特にジャンルといったものはなく気になるものがあればその場で購入します。読むのは、電車の中や空き時間の喫茶店などです。もちろん専門書、実用書は別です。
ここでの2冊は、気楽に読める割に中味が濃く、何よりも面白いと感じました。

ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない

IMG_0001ここでの「ビジネス書」とは、自己啓発書、成功本のたぐいです。
最近はどの書店でも入り口の一等地に所謂ビジネス書が大量に置いてあります。題名を見るとなかなか魅惑的です。いわく、「無理なく続けられる年収10倍アップの××」「ノーリスク・ハイリターンの成功××」「あなたを変える××術」・・・。この本は、この種の書籍が気になって気になってついつい手にしてしまう方にお勧めです。

62ページからの「成功本におけるお約束のストーリー」の部分だけでも立ち読みしててはいかがでしょうか。あまりにぴったり当てはまるので笑ってしまいます。合点される方は、この種の書籍から卒業される方と思います。
このストーリー展開は、いろいろな場面に応用できそうなのでどんどん使っていきたいと思います。何しろ「成功へのお約束」ですから(笑)。

 サラリーマンの悩みのほとんどにはすでに学問的な「答え」が出ている

book_002_01サラリーマンの悩みと言えば、給料のこと、仕事のこと、人間関係に関することが多いと思われます。これらを扱った書籍もビジネス本に負けずに多くの書籍が出版されています。
この本では、「どうして××はできないのか?」「なぜ××が上手くいかないのか?」などは、あなた固有の悩みではなく多くの人が経験するものであって、過去および現在において優れた研究の積み重ねがあり「答え」はできているのだから、その「答え」を活用するのが早道でしょうといった内容です。

 

 

 

 

環境も、経歴も、体力も、性格も違うにもかかわらず「単なる私的な成功体験を他人に押し付ける」ような書物をいくら読んでも[得られるもの÷かけた時間]のパフォーマンスは良くないばかりか、「なぜ、俺は××できないのだ」などと新たな「悩み」を抱え込むことになるのではないでしょうか。

「楽して清貧」「苦労して金持ち」は有っても「楽して金持ちは」無いと思います。古典、大定番書をしっかり読み込み、優れた科学的成果をしっかり学びましょう。自戒を込めて。

気になる「宮本常一」

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イザべラ・バードの「日本奥地紀行」を読む

この本は、民俗学者「宮本常一」さん主催、講読会での話をまとめたものとのことです。「日本奥地紀行」筆者のイザべラ・バードさんの目を通してみた日本の情景を宮本常一さんが語るということですが、民衆史の構築に尽力されていた稀有な民俗学者から語られると、生き生きと眼前にその情景が拡がる思いです。

忘れられつつある日本人、地域、暮らしに思いいたり、文化とは何かを考えさせられるお薦IMG_0002めの1冊です。

ここで取り上げている「日本奥地紀行」は、イザべラ・バードというイギリス人の女性が日本人通訳を一人つれて東日本と北海道とを旅する紀行文です。時代は、明治11年(1878年)のころです。イザべラ・バードは、来日前にも多くの国を旅している大旅行家の女性でこの時、47歳だったとのことです。

外国人、ましてや女性の一人旅であるので慣習からくるトラブルや乱暴者に襲われるなどの心配は当然持っていたが、結局その心配は全く無用であると認識することに関して、宮本常一は、江戸時代から女性の一人旅は特別珍しいことではなかったと語っています。今は、死語になりつつある「日本は世界一安全な国」は現実にあったのでしょうね。

また、どこに行っても「外国の女性」を見に村人がどっと出てくること、屋根にも木にも人があふれいつまでもジーとしていること、障子は用もなく勝手に開けるし、障子にあいた穴には幾つもの眼があることなどの記述からは、プライバシー意識の発達している西洋人には耐えられなかっただろうななどと思うと思わず笑ってしまいます。変化の乏しい日常にある村人にとっては、またとない娯楽なのでしょう。

 
このころの日本には、蚤(のみ)の大群が家にも道路にも満ち満ちていたとの記述を見ると体中にかゆみが走ります。まったく、蚤の存在は厄介ですからね。今、蚤で悩まされることがなくなったのは、DDTを大量使用した進駐軍最大の功績ではないでしょうか。

もちろん一般的にはものすごく貧しいのですが、ところによってはイギリス人の目から見てもユートピアと思えるような場所(米沢盆地)も存在することの記述があり、思わず、米沢=上杉=直江兼続と連想してしまいました。

その他、三味線に対する考察、北海道に渡ってからのアイヌ人に対する考察などイザべラ・バードの記述を起点に宮本常一が語る展開は「民衆史家 宮本常一」の面目く躍如たるものがあり思わず納得してしまいます。

知的好奇心を満たしてくれる一冊です。まずは、書店で立ち読みしてみたら如何でしょうか。平凡社ライブラリー(文庫本)です。

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